機能性ディスペプシア(FD)の治療
FDは原因、症状ともに多彩で、治療法も症例によってそれぞれ異なります。生活習慣の改善のみで軽快する方もいれば、一般的な胃薬で治る方もいる一方、抗うつ剤や漢方薬にしか反応しない方などもいらっしゃいます。治療は、内服治療(症状改善)と食事・生活習慣の改善が基本となりますが、要因は患者様一人ひとりで異なるため、しっかりとご相談しながら治療方針を決めていきます。
生活習慣の改善
生活習慣の改善は、症状の緩和・再発防止にとても有効です。FDは自律神経の乱れによって症状が誘発されていることが多くあります。生活リズムが乱れている場合には、日常に十分な睡眠・休息と、栄養バランスの良い食事、適度な運動をプラスして生活リズムをつくり、自律神経の正常化を促しましょう。また、できるだけストレスを溜めない暮らしを送ることもポイントです。「寝つきが悪い」「お腹が痛くなりやすい」「イライラしやすい」など、何らかのストレスサインがあったら、一休みして気分転換をしましょう。ストレスを無くすというよりも、日頃から“ストレスと上手に付き合っていく”という意識を持つことが大切です。喫煙習慣のある方は、できる限り禁煙することをおすすめします。
生活習慣の改善ポイント
- 十分な睡眠・休息を確保する
- ストレスや疲れを溜めない
- 栄養バランスの良い食事を心がける
- 適度な運動を習慣化する
- 禁煙を心がける
食習慣の改善
FDの予防には、食習慣の改善がとても重要になります。過食・高脂肪食・過度のアルコール・不規則な食事を普段から避けるようにしましょう。ただ、過食を改善する場合、毎日お腹いっぱい食べていた方に、急に厳しい制限をかけてしまうと、FDの原因にもなるストレスが大きくなります。まず、食べ過ぎの回数を減らすことから始めて、その後少しずつ食事のバランスも意識していくとよいでしょう。高脂肪食は胃の動きを低下させる作用があるため、胃もたれや張り・違和感などの要因になります。とくに揚げ物やクリームの多いデザートなどは控え、2食続けて食べることは避けましょう。また、アルコール、香辛料、高カフェイン(ブラックコーヒーなど)は、胃粘膜を刺激して酸の分泌が多くなるため、症状が出ている際には控えましょう。
早食いをしないことも大切です。食べ物をよく噛まず大きいまま胃に入れたり、入ってくる量が多かったりすると、とどまる時間が長くなり消化に時間がかかるため、胃もたれや張りの要因になります。胃酸の分泌も増加し、胃痛の要因にもなります。胃は食事開始から15~20分で動きが強まるといわれており、この胃動きに合わせてゆっくり食べることで、症状が出にくくなります。さらによく咀嚼することで、迷走神経という自律神経が刺激され、胃の動きがよくなり好循環が期待できます。
食習慣の改善ポイント
- 食べ過ぎに注意する
- 決まった時間に食事をとる
- よく噛んで、ゆっくり食事する
- 食べてすぐに運動しない
摂取量の制限が必要なもの
- 高脂肪食(脂っこい食事)
- 消化が悪いもの
- 甘いもの
- 香辛料
- ブラックコーヒーなどの高カフェイン飲料
- アルコール飲料
- 柑橘系の果物 など
薬物療法
FDの症状には、胃のはたらき(機能)の異常が症状として現れる場合と、通常の胃のはたらきを敏感に感じて症状が現れる場合(知覚過敏)があります。後者はストレスなどによって様々な刺激に対して敏感になることで起こります。FDの薬物療法にはこれらの機序に対応する2通りのアプローチがあります。
一つは胃で起こっている異常を改善する方法です。胃のはたらきに異常を起こす主な刺激は、胃の動きと胃酸です。胃は食事をとると胃壁の緊張が緩み広がることで食べ物を溜めて、その後、食物を十二指腸へ送り出します。この一連の動作がうまくいかないと、張りや痛みなどの症状が起こります。それを改善するのが消化管運動機能改善薬です。薬剤にはアコチアミド、モサプリドクエン酸などがあります。また、胃酸が過多に分泌されることで痛みが起きたり、十二指腸に多くの胃酸が流れ込むことで吐き気が起こったりします。この胃酸の分泌を抑えるのが胃酸分泌抑制薬です。薬剤にはプロトンポンプ阻害薬(PPI)、H2ブロッカー、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)があります。
もう一つのアプローチは、敏感になっている状態を改善する方法です。脳の敏感な状態を抑えることは難しいですが、一部の抗不安薬や抗うつ薬にFDの改善効果があることが示されています。また、漢方薬のなかには粘膜の知覚過敏を抑えたり、胃の動きを改善したりするものもあります。なお、ピロリ菌感染がある場合は、ピロリ菌関連ディスペプシアの可能性を考慮して除菌療法を行います。除菌に成功することで症状の改善が期待できます。
治療に用いられる主な薬剤
- 消化管運動機能改善薬
- 胃酸分泌抑制薬
- 抗うつ薬、抗不安薬
- 漢方薬
- ピロリ菌除菌薬(ピロリ菌感染がある場合)
当院では、患者様の症状やお悩みを詳しくうかがった上で処方のご相談をしています。
ご要望がありましたら、お気軽にお尋ねください。